随談第76回 歳末偶談(その3)

歳末らしく年間回顧。但し若手花形を対象に、プロ野球各賞見立てという趣向。

まずホームラン王は菊之助だ。『十二夜』『児雷也』などプロデュースの面での特別賞もある。『十二夜』はさしずめ満塁打を含む一試合三本塁打というところか。すなわち企画力と実行力で満塁ホームラン。二役早替りで2本塁打。『児雷也』は大鷲にまたがっての宙乗りの美男ぶりは盛りの花だが、そればかりではない。玉三郎・菊五郎と堂々と渡り合った『加賀見山』のお初では見事な本格派ぶりを示して、MVPも併せ受賞。

最多勝は前半戦と後半戦に分かれる。前半戦は愛之助。『封印切』の忠兵衛、『廿四孝』の本物偽者二人の勝頼、とくに偽勝頼はノーヒットノーラン達成といってよい。交流戦『五辦の椿』はやや不発だったが、ああいう形での交流戦に出場を乞われるというのも歌舞伎俳優としての実力と人気を期待されてのことで、すなわちこれも実力の内。後半戦は前期ほど場に恵まれなかったが、仁左衛門の『熊谷陣屋』での堤軍次などはワンポイント・リリーフで味なところを見せたポイントを稼いだ。

後半戦の最多勝は亀治郎だ。『十二夜』、亀治郎の会での『矢口渡』のお舟、『児雷也』の綱手姫。綱手姫はひとり古風な感覚でニクイところを見せた。一試合奪三振記録か。あれで『封印切』『鏡獅子』など、開幕戦での力み過ぎによるつまづきがなければ年間最多勝が取れたかもしれない。

首位打者は勘太郎。父の襲名公演の口切に『猿若』をつとめ、『源太勘当』で丸本物に着実な実力を見せ、夏の『雨乞狐』もさわやかな三塁打だったし、暮に踊った『猩々』から『三社祭』は快打一番のホームラン。という具合に、年間を通じて上昇カーヴを描き続けた。地味に見られがちだが本格派の長距離走者として20年後を見たい。『研辰』やコクーン歌舞伎『桜姫』でも稼いだが、古典派としていかに揺るがぬ実力を体得するかが今後の分かれ道になるだろう。

やや地味だが安定した実力を示した孝太郎が、防御率第一位。素人は最多勝の方に目が行きがちだが、防御率に注目するのが玄人というもの。『廿四孝』の濡衣をはじめ安定した実力はもっと注目されてしかるべきだ。ただし『絵本太功記』の森蘭丸で荒事まがいの立ち回りまでさせられたのは気の毒で、おかげで本役の初菊まで冴えなかったのは、実力派ゆえに便利に使われたあおりである。器用貧乏などと言わせないよう気をつけなければ。

松緑が『十二夜』と『児雷也』の大蛇丸で見せた好演にも何か報いたい。仄聞するところ『十二夜』でほめられるのを嫌がっているとか聞いたが、あれは演出者の要求に応じての役作りであり期待に充分以上応えたのだから、堂々と胸を張っていいのである。『鳥羽恋塚』の崇徳院の宙乗りも健闘。さて賞は何がいいだろう。短期決戦の日本シリーズだったら敢闘賞というところだが、年間という観点からして盗塁王としよう。

海老蔵にも何か賞をと思うが『源太勘当』の平次目が覚めるようだったが、開幕戦の実盛と『鳥辺山』はやや不発だった。それにしても後半戦、舞台姿を見ること稀だったのはどういうことか? というわけで不本意ながら今年は受賞を逃した。(この項つづく)

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