わが時代劇映画50選(その7) 『風雲黒潮丸』1956・東映 深田金之助・伊賀山正光監督

もう一回、ジャリ向けシリーズ物映画について語りたい。

伏見扇太郎という役者がいた。二本立て用のB級添え物映画のスターとして、錦之助らが見る間にA級スターに駆け上っていった後を埋めるために開発された新スター群の中で、真っ先に登場し、B級スターとして燃え尽きた、最も記憶に鮮明に残る存在である。

B級添え物映画とはいかなるものであったか。そこには、チャチではあってもまぎれもなくピュアな夢があったことを語るものとして、その代表にして典型というべきこの作を挙げる。伏見扇太郎としても代表作と見ていいだろう。

原作は、NHKの新諸国物語に追随して民放(昭和30年前後の当時は、まさしく民間放送の草創期だった)でも同巧のラジオドラマを制作した、その意味からもひとつの典型である。作者の小沢不二夫は当時旺盛に書いていたラジオ作家のひとりだが(かの美空ひばりの『リンゴ園の少女』の作者、その主題歌「りんご追分」の作詞者でもある)、ラジオでも伏見扇太郎が主役を演じていた。(ついでにいうと不知火姫が楠侑子、オランダ人ルシアノが田中明夫という配役である。)

主人公夢若丸は小西行長の落胤、九州天草の小島に臣下の夫婦を父母として自由闊達に育つが、関ヶ原で行長が敗れると領地を追われ、逃れてきた男装の姫君(丘さとみが桃太郎みたいでかわいらしい)、村上水軍に滅ぼされた大内家の不知火姫(三笠博子という、早くに結婚引退してしまった女優だが、明眸毅然、なかなか素晴らしい)に慕われたり、育ての母(北見礼子という戦前派の古い女優)を人買に誘拐されたり、海賊(こわい顔をした阿部九州男が活劇物の敵役の典型のようなオーバーアクションの芝居をするのも微笑を誘う)と小西家の秘宝をめぐる争い、その背後にいる村上水軍と一戦を交えたり、波乱万丈の活劇の後、漂流のオランダ人水夫(吉田義夫が怪異な風貌を買われた配役)の設計した大船黒潮丸に乗って南洋の海に新天地を求めて船出する。(気宇壮大でしょう? 主題歌の歌詞に、目指すは遠い夢の国、ルソン安南カンボジア、とあった。)

まだら狼と異名のある鱶の群を率いる怪人物とか、洞窟に潜む不知火姫の幻術とか、村上に幽閉された母の「不知火姫、会いたい喃」という嘆きを覚えて口ばしる鸚鵡とか、西欧的な怪奇譚の味付けも、往時の少年もの活劇に欠かせない魅力である。

伏見扇太郎は門閥外の歌舞伎出身者で(たしか中村又五郎の弟子と聞いた)、お雛様のように色白で華奢な、いたいたしいほどの美少年だった。歌舞伎出身らしい挙措動作の美しさがあったが、それが長とも短ともなった。完結編が同時上映だった錦之助千代之介の『曽我兄弟・富士の夜襲』で、錦之助の五郎を召し取る御所ノ五郎丸が目に残る。

だが数年後に襲来した黒澤・三船コンビの『用心棒』ショックと映画産業衰退による時代劇路線の壊滅というダブルパンチによって、伏見扇太郎のようなタイプは働きどころを失った。何年か後に悲惨な末路を週刊誌で知った。特に贔屓というのではなかったが、その悲しい最後もふくめて、忘れがたい。

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