随談第146回 昭和20年代列伝(その7)ひばり礼賛(1)

三人娘の話の続きを書こうと思っていたら、ちょうど両国の江戸東京博物館で「美空ひばりと昭和のあゆみ展」というのをやっているのを知って見てきた。ついでに、特選オリジナル・ベストヒット集というカセットを買ってきて、このところ連日愛聴している。第一集だけが売れ残っていたのだが、デビュウの1949年から57年までの主なヒット曲が入っている。私にとっては、聴きたい曲のほぼ八割方はこれだけあればカバーできる。

この前書いた「心の青空」というCDの中で小沢昭一さんも言っているが、「悲しい酒」とか「川の流れのように」とかいった晩年の名歌唱も悪くはないが、それよりもこの第一集の3巻物に入っている若いころの曲の方が、はるかにすばらしい。晩年の名歌唱礼賛は山折哲雄センセイにおまかせして、10代のひばり礼賛と行こう。

ことわっておくが、私はこれまで、ひばりファンであったことは一度もない。いわば騎虎の勢いで「ひばり礼賛」などというタイトルをつけてしまい、気恥ずかしい気がしないでもないのだが、改めようとは思わない。つまりこのごろになって、つくづく、いいと思うのである。

カセットを聴いていると、忘れていたような歌が甦ってきて、一、二度聴くともう、気がつけば鼻歌に歌っていたりする。記憶の底に眠っていたのである。『二人の瞳』などというのは、こんなことでもなかったら永久に忘れたままだったかもしれない。これは当時アメリカで人気のマーガレット・オブライエンという少女スターが来日して、日米の少女スターの顔合わせというので作った映画の主題歌である。映画はちょっとお手軽で、なんでも、ひばりの役の花売り(だったと思う)の名前が阿部マリエといって、これがオブライエンの乗った車にはねられるか何かして、ふたりは知りあうのだが、初対面で名前を聞いたオブライエンが「おお、アベマリア」というところだけ、よく覚えている。

オブライエンは、その少し前に公開されて評判をとった『若草物語』で四姉妹の末っ子の役をやっている。この映画は、カラーの色合いがいかにもこの当時の色合いで、淡い感じに品があった。まだ日本映画にはカラーがなかった時代である。四姉妹は上からジャネット・リー、ジューン・アリスン、エリザベス・テイラーにオブライエンというわけだが、『細雪』でも『若草物語』でも二番目の幸子なりジョーなりがしっかり者で中心になるのはなぜだろう? それにしても、ジューン・アリスンという女優は当時随分人気も評判も高かったはずだが、ついこの間死んだときの新聞の記事がいやに小さいので驚いた。ジューン・アリスンを語れる識者がいまの日本にいないとは思われないが・・・

話を戻そう。『二人の瞳』のほかにも、『チャルメラそば屋』とか『春のサンバ』などというのも、忘却の淵から一聴、あざやかに甦った口だ。『チャルメラそば屋』はうしろ半分は歌詞が英語になる。『春のサンバ』にせよ、新しいリズムを取り入れたり、英語で歌ったり、もはや天才少女で売る年頃でなくなり始めたひばりにとって、新領域拡大の意味もあったのだろう。ところで『二人の瞳』も『春のサンバ』は作詞が藤浦洸だが、このハイカラ・モダニストの傑作が『東京キッド』である。

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