随談第204回 相撲偶談、とりわけNHKの相撲放送について

名古屋場所が終わった。朝青龍は琴光喜戦以後の5日間だけで場所を制したようなものだが、目覚めれば紛れもない獅子であったことを示したわけだ。白鵬は逆に琴光喜戦までがすべてだった。内面で糸が切れれば脆いことを見せてしまった。両横綱の対琴光喜戦二番が、内容としても白眉であり、今場所を決定したといえる。琴光喜の新大関は史上最高齢だそうだが、到底そうとは思われない身心両面の若さが、これまでは大成を阻む要因であったのが、今後は逆に、それだけ可能性を宿している表れともなり得るところがミソだ。

ところで今場所もまた、NHKの相撲放送には、かなりいらいらさせられた。相撲放送に限ったことではないが、事前に作った進行予定に乗っ取った、というより、必要以上に縛られた展開があまりにも多い。あれでは、実況放送ではなく、式次第の消化に近い。

終盤の数日は、ほとんど琴光喜のために放送をしているかのようだった。対横綱戦の日ならまだしも、連日、琴光喜の取組のはるか以前から、過去のデータやら、支度部屋の様子の報告やら、ほかの取組の間にやたらに流す。取組の間というが、土俵上では仕切りを重ねているのだ。そんな取組はどうでもいい、とでもいわぬばかりにすら見える。まして、花道を入ってくる、控えに入る、となると、土俵上のことは二の次にして琴光喜のアップを長々と映す、解説者やゲストに琴光喜についての話題を向ける。

今場所の琴光喜は注目の的には違いない。そこに焦点を当てることも、それ自体は間違いではない。だが相撲中継を見る者の中には、琴光喜以外の力士に注目し、その成績に一喜一憂している者も少なからずいるのだ。第一、当の土俵上の力士に失礼ではないか。

いらいらは、ゲストを呼んだ日には倍増する。中日のゲストは奥田瑛二で、なかなか見識もありよかったのだが、問題はアナウンサーの対応ぶりだ。ベテランのアナで一見なめらかなのだが、この場合、ベテランということはそれだけ、現状にどっぷり浸っていることを意味するから一層始末が悪い。事前に打ち合わせたメニューは全部こなさないといけないと思い込んでいるらしい。終盤戦の大詰めになってから、今度作る作品のことを話題に出したりする。予定調和を求めすぎるのだ。結果的に、誘導尋問めいた、期待する答えを引き出すことばかりが優先することになる。

勝ち力士へのインタビューもいらいらの的だ。最近のアナウンサーは、相手の応答に関係なく、予定した質問項目を消化することばかり考えているように見える。「おめでとうございます」「ええ、うれしいです」「どうですか。嬉しかったでしょう」といったやりとりが多すぎる。もう、答えはすんでるじゃないか!

千秋楽の三賞力士インタビュウ・ルームに、敢闘賞の豊響がいなかったのは何かの事情だったとしても、そのことを一言も言わないから、放送途中から見た私は、豊響の受賞を知らなかった。表彰式に向かう花道の奥に、琴光喜・安美錦と並んで豊響の顔も見えたのでハハンと気がついたが、アナは琴光喜のことばかり、それも同じことを繰り返し喋っていて、さっきインタビュウできなかったことに触れようともしない。琴光喜への十言の内、ひと言、豊響へ回すことも考えつかないのだろうか。

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