随談第213回 スポーツ偶談 朝青龍問題

朝青龍問題は一カ月の間に馬鹿げたことになってしまった。相撲協会が療養のためのモンゴル帰国を了承してから、実際に帰国の際の顛末を見ていると、いったん後手に回れば良手も悪手と変らなくなる見本みたいなものだ。帰国に同行しながら、わずか30数時間で戻ってきた親方は、あれで全責任がとれるのだろうか。

このブログの8月6日付け随談第207回にも書いたが、相撲協会は、モンゴル側に向かって、朝青龍を罰した理由を改めて明確に伝える必要がある。当初、モンゴル大使館から、サッカーをしたのは当方の依頼によるものであるという事情説明があったぐらいなのだから、それに応える意味からも、大使館をつうじて、処分の理由をモンゴル国民にきちんと伝えてくれるよう申し入れるべきである。

テレビのニュースでモンゴル市民の反応というのを見ていたら、日本では力士がサッカーをやってはいけないのか、オカシイヨと叫んでいる女性が映っていた。笑いごとではない。こういう誤解が、国際問題となると馬鹿にならないのだ。朝青龍がモンゴルに帰ってなぜいけないのだと主張する声が多いのも、その陰にどれだけ正確な認識があっての上の意見なのか、危ういかなという感じがする。

協会は、帰国を了承したという発表を、今回も処分決定の時と同様、伊勢ノ海理事にまかせている。普段ならそれでいいが、これだけ事態が、国際問題にまで発展しかねないほどの規模になった以上、理事長が特別な場を設けて、協会の考えを内外に向けて説明するべきだ。協会はまだ内側しか見ようとしていない。

それにしても、朝青龍は、事態をどれだけ正確に認識しているのだろう? どうしてこんなことになってしまったのか、と呟いていたという当初あった報道が、心情を推察する唯一の手がかりだが、そもそも、親が子供を叱るのでも、教師や上司が学生や部下に注意をするのでも、当の本人が何故叱られたのか理解しなければ何の意味もないように、朝青龍は、何故自分が処分を受けねばならなかったのか、理解しているのだろうか? いや、協会や親方は、そこをどれだけきちんと伝えたのだろうか?

報道で知るかぎりの朝青龍の様子から連想するのは、何故だ、と叫んで解任されたかつての三越社長と、小菅から出所後、酒浸りになっていたという田中首相の姿である。俺にも落度はあったかもしれないが、誰よりも抜群の貢献をしてきたのだから多少のことは許されていい筈だ、という思いが彼等にああした行為と態度を取らせたことはたしかだろう。

先月末にモンゴルから帰国したときが鍵だったのだ。あそこで朝青龍にまず謝罪させ、それを受けて協会が譴責した上で、巡業に参加させ土俵入りだけでもつとめさせればよかったのだ。そうリード出来なかったのが、事のすべてである。かつての夏の巡業は、東北北海道を二ヶ月もかかって回り、ファンサービスだけでなく、夏稼業と称してそこでどれだけ実のある稽古をするかが、向こう1年間の成果を決めると言われたものだ。横綱たちも、体調が悪い場合でも巡業にはなるべく参加し、せめて土俵入りぐらいはつとめたもので、協会は営業本位すぎると批判されたぐらいではなかったか?

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