随談第242回 ひさしぶり野球随談

風呂上りにテレビをつけると巨人-中日の第三戦が画面に現われたと思ったら、和田がスリーランを打って、中日が5対1と巨人を突き放す光景が映った。和田というのは地味な選手で、子供のころから中日ファンで今年念願かなって移籍してきたのだそうだが、いま楽天で甦っている山崎とか、その前にいた大豊とか、このところの中日の日本人スラッガーというのは、地味なタイプが多いのは面白い。急にレトロな話になるが、和田という選手はちょっとむかしの小鶴に似ているような気がする。

われわれの世代の少年時代に見た中日の強打者というと、まず西沢だが、この人にしても、スターとしてのチャームはあったが、同時代の川上とか藤村とか大下とか青田とかいったホームラン・バッターと比べると、強力なオーラという点では一歩ゆずった。そのかわり、スマートという点では、別当と並んで双璧だった。女性ファンにだけ限れば、たぶんこの二人が人気ナンバーワンとツーだったかも知れない。笑顔がなんともよくて、なつかしいような人柄を表していた。少年雑誌のグラビアで見た西沢の笑顔を句に詠んだ私と同世代の女性がいるが、さもありなんという感じである。

1951年に戦後はじめてメジャー・リーグがやってきたとき、大リーグ(と言ったほうが、この時代らしい)の投手から日本人ではじめてホームランを打ったのが、この西沢と別当だった。日本選手が大リーガーからホームランを打っただけで、大ニュースになったのである。その2年前に来たサンフランシスコ・シールズというのは、日本は全然歯が立たず、ずいぶん強いと思ったものだが、このチームはじつはマイナー・リーグだったのだ。本場というのは大したものだと、大人も子どもも誰もが思ったものだが、この「本場」意識だけは、草木もなびくようにアメリカ野球へ転進するいまの選手にも、強烈なDNAとなって受け継がれていることになる。

本場だと思うから、日本での恵まれた場を捨てでも、あるいは、もうひとガンバリしようと思うにしても、アメリカ野球へ行こうと思うのであって、中南米のリーグへ入ろうと思う選手はいない。逆にアメリカ人の選手で、日本ばかりでなく、台湾や韓国のチームに流れて(?)くる選手は大勢いる。この辺が、なんとも微妙に面白いところだ。

日本に来ていたときはさほどの選手とも思えなかったのに、いまになって、メジャーリーグで結構活躍していたり、中には監督だのなんだのをやっているというケースも、ちょくちょく見かける。それを思えば日本人も、選手としてばかりでなく、監督やコーチとしてメジャーリーグから招かれたりするようになって、はじめて対等ということになるのかも知れない。たとえば星野仙一氏が、北京オリンピックの後、メジャーリーグの球団から監督として声がかかったりするようになって、ようやく、さしも強烈な本場アメリカという意識のDNAも薄れはじめるのだろう・・・・か?

などと言っている間に、あれよあれよという間に三連続本塁打などというのが飛び出して、テレビの画面の中の野球は、巨人が逆転勝ちしてしまった。これで巨人が結局優勝でもすれば、これが「伝説」となるのだろう。つまり私はテレビでとはいえ、伝説の現場を目撃したことになる。それにつけても、いよいよ和田は地味な選手ではありますなあ。

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