随談第558回 今月のあれこれ

今月の歌舞伎座については新聞に書いた以上のことを多く語る必要はあるまい。二代目松禄追善がらみの出し物に、音羽屋畑とは縁があまりなかった仁左衛門に玉三郎がそれぞれの得意のものを出して昼夜に並べたという、互いに隣りのテーブルを気にし合いながら、別々に注文した料理を食べているような按配で、玉三郎が『文七元結』に角海老の女将で出るが何だか気もそぞろで身に沁みないようだし、仁左衛門が『髪結新三』に加賀屋藤兵衛で出れば、あんないい男の婿が来るならお熊は忠七と駆け落ちしなくてもいいのではないかと余計なことを思わせたり、ご馳走というよりお付き合いというところ。(それにしても玉三郎の角海老の女将は、時々、せりふに呂律が回らないような妙な口跡が気になる。今に始まったことではないが、今回はとりわけ気になった。)... 続きを読む

随談第554回 今月の舞台から(その2)&今月のあれこれ

偶然の重なり以外の何ものでもないが、各種の原稿5本に(当然ながらその校正も)、秋に出る著書の再校などが2週間ほどのところに集中したあおりで、心ならずも今月の舞台(その1)を掛け流しのまゝにしてしまった。BC級映画名鑑が中断のまゝなのも気になるが、渋滞解消の法則に従って一車線ずつ、順を追って掲載して行くことにしよう。まずは今月の舞台からその2、及びその他のあれこれから。... 続きを読む

随談第552回 今月の舞台から(2015年7月)

国立劇場の歌舞伎鑑賞教室が発売ほとんど同時に売り切れたという。菊之助が『千本桜』の知盛をするせいだが、一昨年来、吉右衛門令嬢との結婚によって生じた縁戚関係が結びの糸となってのさまざまな新奇な配役は、遂に、こうした思いも寄らなかった事態を生み出した。もっとも、丸本時代物の大役を演じるに当って吉右衛門に教えを受けるのは別に縁戚関係に拠らなくとも、当然あるべきことであって、現に同じ今月の歌舞伎座でも海老蔵が熊谷を演じるに当って吉右衛門に教えを乞うている。しかし事は、菊之助が事もあろうに知盛を、である。... 続きを読む

随談第550回 今月の舞台から(2015年6月)

『新薄雪物語』を『忠臣蔵』並みに昼夜に掛けて出そうという今月の立て方は、歌舞伎座としてももしかしたら初めてかも知れない。入りが薄いなどと言われてあまり出なかったのが、平成になる前頃から上演が増えてきたようなのは、歌舞伎に対する世の嗜好(志向)が変ってきた、これもひとつの表われとも言えそうだが、それでもまだ知名度は高いとは言えない。なまじ「新」の字がついているために新作物と思い込まれることも、いまなお跡を絶たない。... 続きを読む