随談第281回 近ごろ乱読のこと

乱読といっても、この前書いたように机に坐っての読書をする暇がない状態が続いていたので、すべては車中読書である。

暮に、近ごろちょいと掘り出し物だった野球本と相撲本のことを書いたら、教えてくれる人がいて、高千穂ひづるが自伝を出したというので、早速に買って読んだ。なかなか面白かった。「スターたちと過ごした日々」という副題がついていて、これがどうして伊達ではない。育ちの良い人らしいたしなみはありながら(言うまでもないと思うが、父君はプロ野球の名審判だった二出川延明氏である)、正直な人らしい率直さから、結構思い切ったことを言っている。東千代之介など別に悪口ではないがちょいと面目ない、という感じ。そういえば、坂田藤十郎と扇千景がそれぞれ「日経」の「私の履歴書」に掲載したのを「夫婦本」にしたのも予想外に面白かったが、これも、扇が昔の共演者について率直に語っているところが出色だった。長門裕之など、ああ書かれてしまっては一言もないだろう。(ここにはちょいと書きにくいから、ご自分で確かめてください。)

高千穂本の『胡蝶奮戦』というタイトルは、『笛吹童子』で演じた胡蝶尼という役名から来ているのだろう。ウム、たしかにあれはよかった。足利将軍の落し胤で、丹波の大江山かどこかで提婆と称する老婆に鳥や獣と一緒に育てられた、自然児でありながら神秘性をもった乙女、という、そういうやや現実離れしたロマン風の役が似合う女優だった。だから、せっかく東映で錦之助・千代之介と共演して人気があったのに、五社協定にひっかかってしばらく謹慎までさせられて松竹に移って、折からのヌーベルバーグの作品などで気張っているのは、正直、あまり嬉しくなかった。だが78歳という年齢(を隠しもしない率直さ!)になって、やっぱり胡蝶尼を代表作と思っているのだな、と知って、こちらもなく何となくホッとする。それにつけても、この手の本は、あまり名誉赫々たる大名優のよりも、このぐらいのスターの方が面白い。

劇画本を買った。『大奥』という、いま評判の本だ。江戸城の大奥が、男女が逆転していて、将軍はじつは女で、お局からお端下の女中(?)までがみな男だった、というのだが、この設定がなかなかよくできている上に、細部もなかなか小手が利いていてスルドイ。こういう発想は、現代への一種の文明批評的感覚から閃いたのに違いない。男はあと何百年だか後には絶滅するという説があるが、あり得べきことだろう。ついでに、レジの脇に置いてあるのがふと目に入って、『女装する女』という新書を買った。現実の社会、とくに仕事の場では女がすでに女でなくなっているので、敢えて「女らしい身なり」すなわち「女が女装」をするのだ、というのである。これまた、ウム、ナルホド、と思わせる発想である。ここにも扇千景が出てきて、参院議長でびらびらのたくさんついた服を着ていたのも、あれも意図的な「女装」なのだそうだ。フーム、という気もする。

これらに比べると大野暮だが、これも教えられて『時代劇は死なず!』という新書を読んだ。大真面目、しかも自ら酔って謳いあげたりもしているが、東映や大映の時代劇が、映画からテレビ時代劇に移って行くサマを明晰に書いている点、なかなかの好著である。(それにつけても、このブログのテーマの一つにしている『わが時代劇50選』、だいぶ休みが続いてしまった。そろそろ再開したいと思っているが・・・)

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