随談第7回 上村以和於野球噺(その1)

しばらく野球の話をしよう。

まず当面の話題は、メジャー・リーグである。もっとも、イチローや松井の大活躍礼讃みたいなことは、いまはやらない。彼らの活躍はもちろん喜ぶべきことだが、すでに賛辞の山が聳え立っている上に、いまさら賛辞をつみかさねても仕方がない。

それよりも、メジャーから帰ってきた人に興味がある。

メジャー行きを目指す選手に対して行くなという声がある。もっと日本の野球のことを考えろというわけで、尤も至極なのだが、あれは言ってもあまり効き目はないだろう。最高の舞台がある以上、最高の舞台を踏んでみたいのだと巨人の上原投手が言っていたのが、何よりも正直な言葉だろう。こういう場合の正直というものは実も蓋もないものなのだ。アイツの方がカッコイイと思ってしまった以上、もうどうにもならない。たしか江川卓氏の言だったと思うが、黒船が渡来して開国してしまったいま、海を渡りたいと思う思いを縛るわけには行かないのだ。

その意味で、数あるメジャー入りした選手たちの中で誰よりも天晴れだと思うのは野茂である。あの実行力は、黒船に小舟で乗りつけた吉田松陰に匹敵する。野茂はまた、ジョン・万次郎にもちょっと似ている。(松蔭ほどインテリでない点も。)

いまはむかし、江夏が現役を退いてからメジャー入りのテストを受けに入ったことがあった。あれは凄かった。同時に、ちょっと突拍子もなかった。スゲエナアと思う一方で、実はまだあまりピンときていなかった。だから、結局ダメだったということになっても、攘夷思想みたいな情感を刺激されたりはしなかった。林子平が、江戸湾の水はテムズ川に通じているといっても、あまりピンと来なかったようなものかも知れない。

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