随談第89回 観劇偶談(42)

日本伝統芸能振興会が主催し舞台創造研究所がプロデュースする「歌舞伎フォーラム」を見に行ったら、それが3時すぎに終わった後に、こちらは舞台創造研究所が主催する「江戸博こども体験歌舞伎」の公演があるというので、予定を変更してそちらも見ることにした。

歌舞伎フォーラムは既に19回目で馴染みの人も多いと思うが、今回は『二人袴』(珍しいといえば珍しい部類ではある)に『源氏店』という、『松王下屋敷』だの『老後の政岡』だのという珍品を時として見せてくれるこの公演としては、ややおとなしやかな演目である。このフォーラムでは座頭格のようにも見える中村又之助が、今度も芯の二役をつとめる。この人のいいのはなによりもセリフがしっかりしていることで、本領は時代物役者ではないかと思うが、与三郎のような役にもそれは生きていた。『二人袴』を見ても、踊りも踊れる。『演芸画報』のグラビアなどを見ていると、若いころの初代吉右衛門に風貌が似ているような気がする。

彼等のような若い人たちが演じると、たとえばお富などにしても、ちゃんと自我があって自己主張をしているように見える。神妙に教わった型を演じているのだが、一方にそう感じさせるのは、芸が若いとは言えても未熟だからとは言うべきでない。

こども体験歌舞伎の方は、一昨年だかに一度見たことがあるが、チラシによると「子供達に本物の歌舞伎公演に参加していただき、世界に日本文化を伝える実演者になってもらいたいと考え」とある。各地区の教育委員会を通じて参加者を募集したところ、100人のところへ180人の応募があったという。それも、親ではなく、子供たち自身の希望による申込みであるとのこと。

事前に楽屋を見せてもらったが、母親たちが学校の行事に参加・協力するときのように、楽しそうに手伝っている。顔をしてもらい、襦袢姿や浴衣姿のこどもたちの顔を見ると、いかにも(蚊取り線香のCMめくが)ニッポンのこどもという感じがするから不思議だ。つまり、歌舞伎のメイクがびっくりするほど自然で、よく似合うのだ。

実技の指導は、総括は大谷桂三が受け持っているようだが、実際面では舞踊の関係者がしているとのことだった。演目は『白浪五人男』の勢ぞろいに常磐津の『乗合舟恵方万歳』、それに『曽我物語』という書き下ろし新作の三本立て。予定外だったので、時間の都合で残念ながら『曽我物語』は失礼させてもらったが、「曽我物」をこどもたちに演じさせるというところにも、配慮が察しられる。

『五人男』の勢ぞろいも、それぞれ仁に合った「役者」が選ばれていて、幼いながらにちゃんとした「五人男」になっている。セリフの緩急もきちんと教えていることがよくわかる。プロの役者だととかく自分の癖で言ってしまいがちなところも、幼くとも教わったとおりに言うので、ことばの綾や意味がかえってよく判るのも面白い。

この試みが今後どういう風に定着し、実を生らせることになるのかはまだわからないが、世に知らしめる一助にもという意味合いも含めて、ここに書いておこう。

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