随談第141回 観劇偶談(その70)稚魚の会・歌舞伎会合同公演

他に書く場がないので、第12回の合同公演の評判記を書くことにしよう。

まず『修禅寺物語』。田之助指導とある。A班のかつらは歌舞伎会のベテラン徳松、B班は稚魚の会11期生の由蔵とキャリアからいっても仁からいっても対照的な配役。徳松は仁より芸で見せる行き方だが、新歌舞伎のこういう役も見事にこなしてしまう力量には感心する。感触からいうと、現在の第一線の人よりも、むしろもうひとつ古い時代の新歌舞伎を思い出させるような味があるのが面白い。ねばりのあるセリフの力強さがそう思わせるのだろう。由蔵は柄と仁が役によくかなっている。面を付け手負いになって登場するところなど、綺堂好みの怪奇趣味の面白さがあった。

歌舞伎会の坂東悟と13期生の尾上松五郎が、A班とB班で夜叉王と修禅寺の僧という対照的な役を交替するのは面白い配役だ。どちらもよくやっているが、夜叉王の芸術至上主義の頑なさは松五郎の方があった。僧の方は悟にいい味があった。こういう役はまだ若い松五郎にはかえって難しい。 頼家はともに14期生の蝶之介と梅之。高く張った謳うセリフがふたりとも立派。A班のかえでと春彦が喜昇と獅一、B班が竹蝶と隆松。指導の薫陶よろしきが察しられる。まだ芸名のない18期生が鎌倉方の軍兵の役で出演している。

中幕は舞踊三段返し。『廓三番叟』のような格と味と風情で見せるような踊りは若い彼らには一番の難題であることがわかる。まつ葉の振袖新造がいい風情をしている。

『願糸縁苧環』は常磐津による「妹背山道行」。国久のA班のお三輪と伊助のB班の求女がいい。国久はなかなかの研究熱心と見える。B班の京三郎のお三輪も、可憐な風貌も味があるし、哀れがあっていい。A班の春花の求女も二枚目への可能性が見える。橘姫の京珠と福緒はともに17期生。サマになっているだけでもえらい。

『三社祭』は段一郎・富彦のA班、国矢・左字郎のB班ともに、『修禅寺物語』では金窪兵衛の郎党コンビという隠し味のような配役。両コンビともよく踊って敢闘賞ものだが、とりわけ左字郎の悪玉が秀逸だ。この人、普段でも目につく存在だが、踊りのセンスがこの中では抜群だ。

『引窓』は、与兵衛・お早・お幸をA班が橘三郎・仲之助・嶋之亟の歌舞伎会組、B班が猿琉・春之助・歌女之丞の稚魚の会組、濡髪は12期生の吉六・13期生の茂之助。稚魚方は歌女之丞以外は若手揃いである。

橘三郎は、前身をとくに匂わせない地味なやり方で、ベテランらしい安定感と要所を盛り上げる緩急が巧い。猿琉は研究熱心らしく、細部にまで気を配った努力賞もの。もう少し緩急が出るといいが、16期生とは思えない。13期生の仲之助、16期生の春之助は、世話女房は一種の後見役といわれるようなこまかい気配りの身に付き方は三期分だけのキャリアの違いはあるが、ともに初々しい女房ぶりが好もしい。お幸は技術的には歌女之丞が勝るが、巧さがかえって平板に通じるのが巧者のベテラン故に陥りがちな難。嶋之亟は「濡髪の長五郎を召し取った」をきっかりと言うなど、全体の構成を考えた芝居がいい。

ふたりの濡髪はちゃんと役になっている。やや甘いが敢闘賞。

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