随談第163回 歳末偶談・若手役者野球各賞見立て

去年の暮、若手花形の一年間の成績を野球の各賞に見立てたのがどうやら好評らしかったから、今年最後の記事として、これを吉例にやっつけて年越しとしよう。

まず本塁打王兼三振王が海老蔵。11月の『勧進帳』の弁慶、10月の『対面』の五郎、1月の『信長』を三傑とする。ホームランは数よりも飛距離、三振も魅力ある三振をするのがオーラの因。『四の切』の忠信は結果は三振だが、打球が場外へと消えた大ファウルが凄まじかった。三振王が強打者の証しであることは歴史が証明している。

『勧進帳』では富樫、『対面』では十郎と、海老蔵と組んで大飛球をファウルにさせなかったのは菊之助の功績である。十郎などを見ていると、彼の本領が祖父梅幸と同じく、若衆方の延長にある二枚目にあることがわかる。しかし女方も優にその領域であることを何よりも証明したのが、2月玉三郎と踊った『京鹿子二人娘道成寺』だった。名内野手としてゴールデングラブ賞という手もあるが、大タイトルにふさわしい華麗さを思えば最多勝投手がふさわしい。

最多勝より玄人好みなのが最優秀防御率というタイトルで、これは亀治郎以外にはない。

1月の『鳴神』などは防御率という点では大変なものだが、わっと湧かせるにはちょいと損の卦。同月の『蜘蛛絲梓弦』と4月金比羅での『かさね』『比翼稲妻』のお国、5月演舞場での『櫓のお七』もよかったが、何といってもめざましかったのは亀治郎の会での『安達原』の袖萩と貞任だ。6月のロンドン公演で海老蔵と踊った『かさね』の新聞評に、エクリプス(日蝕)で海老蔵を隠してしまったというのがあった。

勘太郎に首位打者をやりたいが、怪我で半年を棒に振ったため残念ながら規定打数不足だ。しかし暮の京の顔見世で踊った『猿若』は、去年三月、父親の襲名最初の月に踊った同じ役に比べると大飛躍は歴然としている。1月浅草での『蜘蛛絲』の頼光もよかった。五十歳を過ぎた勘太郎というのはきっと凄くなっているはずだ。

七之助には何をあげよう。一月に兄と競った『六段目』のお輕、夏の旅での八重垣姫など兄をカバーしての活躍で、打率はかなり高かった。でも、首位打者にはどうかな? むしろセーブ王か?

秋の『元禄忠臣蔵』連続上演で亀寿の好演が目についた。第一部での大石瀬左衛門、磯貝十郎左衛門、第三部での大高源吾、どれもよかった。淡白で清潔感のある芸質は、むしろ新歌舞伎に合っているのかもしれない。最優秀中継ぎ。

松緑は11月演舞場の『番町皿屋敷』の播磨はセリフを謳わず直截に演じてこの狂言を本卦返りさせたかのような新鮮さがあった。このあたりに松緑の道が拓けそうだ。染五郎はパルコ歌舞伎や『細川の血達磨』などアイデア物が先行。しかし『血達磨』は見はぐったので悪いが愛之助ともどもタイトルなし。もちろん、見なかった責任は私にある。しかしそろそろ古典の大役での快打一番がほしい。

新人賞は『江戸の夕映』『紅葉狩』の尾上右近と「大石最後の一日」で細川内記の梅枝。少々慌しいけれど、まず本年はこれ切り。どうぞよいお年をお迎えください。

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