随談第211回 観劇偶談(その101) 稚魚の会・歌舞伎会合同公演

今年は『寺子屋』『乗合船』をA・B両班、『須磨の写絵』『勧進帳』をC班というプログラム。いわゆる御社日に見たのだが、C班のときは又五郎が九十翁とは思えぬ元気な姿を客席に見せていた。監修・指導として来ていた團十郎も、遠目ながら顔の色艶もよく元気そうだったのは何よりである。

そのB班で新蔵が弁慶をつとめる『勧進帳』が注目を集めている気配。たしかに、なかなかの弁慶ぶりであった。何より、一貫した緊張感と安定感とテンポをコントロールよろしく持続し、最後まで崩れることなくゆとりをもって演じ切っているのが大したものだ。

マウンド捌きよろしく9回を完投した投手のよう。伏兵という意味で、今月の一押し候補に入れてもおかしくない。

必ずしも仁がいいわけではない。だから荒事味は薄く、あくまで実事本位の、大人の弁慶である。管理能力に長けた、実力ある頼もしい部長さんのような感じ。呼び止めで、花道へ行きかかった四天王がスワヤと駆け戻ろうとするのを、花道付け根で留める時、まず先頭の常陸坊を止め(これは誰でも同じ)、次に大きく身体を横に後方を覗き込むようにして、うしろの二人(亀井と片岡?)に向かって押しとどめる仕草をする。あまり見かけないやり方のような気がするが、この辺が気配りよろしき部長さん風のイメージになる。

その一方で、なかなか芝居ッ気のある弁慶でもある。心を許して番卒相手に酒を酌むところろか、角々のキマリに見せる様子が、充分に意識的で、面白い半面、ちょいと品格をそこねる嫌いもなしとしないから、そこらを突いて批判も出ると想像される。しかしかつての小芝居の座頭などにはこの手の手だれも多かったのではあるまいかなどと、想像を働かせる楽しみもあって、私は必ずしも嫌ではない。同じ部長さんでも、三井三菱などではなく、実績充分な中企業の部長さんという感じ。それにつけても、新蔵という人、ふしぎな役者ではある。

A班の『寺子屋』でも、歌女之丞に徳松というベテランが千代と戸浪をつとめる。歌女之丞は「音の会」でも『九段目』の戸無瀬をつとめたばかりだ。この人たちの実力というものは大変なものである。『須磨の写絵』で松風をつとめた京妙にしてもだが、つまりもう、歌舞伎界もこういう人たちなしには存立し得ない時代になっているのだ。

B班は、A班に比べると両女形に限らず若手が多いので、比較をすれば当然差異は目につくが、しかしそんなことより、みなしっかりしているということの方がはるかに強く印象に残る。B班の松王丸の錦次など、幼さはもちろんある中にも、16期生だというのが信じがたい、素直でのびやかないい芝居をしている。

『乗合船』もなかなか面白かった。万歳・才蔵はA班が翔次・音之助、B班が画蝶三郎・獅一、曲のエスプリをつかんでいるのに感心する。そのほか全体を通じて、いちいち名前を挙げきれないが、まさり劣りはあっても、とんでもないような人はひとりも見当たらない。終日見て、大変ですねと会う人ごとに言われるが、なに、すこしも大変ではなかった。つまり、それだけ気持ちよく見たのである。

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